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司会:
こんにちは。本日は、映画『詩人の恋』をご覧いただき誠にありがとうございます。司会の映画ライターの落合有紀です。本来ならばキム・ヤンヒ監督を直接お招きしたかったのですが、コロナ禍で難しい状況が続いておりますので、リモートの形で監督とトークを行うこととなりました。我々スタッフも、感染予防のためリモート上にて進行させていただきます。それでは早速、キム・ヤンヒ監督よりご挨拶と、本作を撮ることになったきっかけをお話しいただきたいと思います。監督、お願い致します。
キム・ヤンヒ監督:
みなさん、こんにちは。キム・ヤンヒです。コロナ禍のなか映画館に足を運んでいただき、ありがとうございます。実は、私は去年の今頃日本にいました。語学研修で日本にいたのですが、日本の皆さんとも友達になれましたし、5ヶ月間、とても楽しい時間を過ごしました。私がこれまで作ってきた短編映画などは、人とのご縁、人に対する影響力などについて描いた作品が多いのですが、おそらく私が日本で過ごした時間も、これから何らかの形で映画になると思います。とにかくみなさんにこのようにお会いできて、とても嬉しいです。
『詩人の恋』を作ることになったきっかけですが、私は韓国の大学で映画(演出)を専攻して、当然のように映画を作りたいと思っていました。どの国も同じだと思うのですが、やはり映画を作る人たち、あるいは芸術家の人生というのは本当に大変なものです。私もそうだったのですが、あまりにも大変なので、映画を辞めなければいけないかなと思っていたのです。そして、これまで自分が生活したことのない場所に住んでみようと思い、済州島に行きました。済州島は韓国でいちばん大きな島なのですが、そこに引っ越したんですね。島では映画を作るというよりは、映画を教えることをしていて、映画を辞めようと本気で思い、挫折を味わっていた時期でした。その中で、偶然ひとりの詩人と出会いました。その詩人の方が、まるで童話に登場してくるような、本当に優しくて純粋な方でした。本作に登場する主人公に通じるところがあるのですが、そんな人が、とても悲惨な絶望的な愛と巡り合ってしまったらどうなるのだという、好奇心からスタートしたのが『詩人の恋』です。そこからは早くシナリオを書きまして、たくさんの方にシナリオを読んでもらいました。私としては、映画を辞めようと思っていたときに、これはアイロニーと言えるのかもしれませんが、また映画を撮ることになったわけです。
司会:
本日の公開より、劇場にてパンフレットをご購入いただけます。監督のインタビューが約6000字程、ボリュームたっぷりと収録されておりますので、今日はその中には載っていない、観客の皆さんからお寄せいただいた質問をメインに監督に伺いたいと思います。それでは、早速1問目です。
Q1:
東京国際映画祭(2017年)のQ&Aで、ヤン・イクチュンさんのことをとても繊細でアジュンマ(おばさん)っぽいようなところのある人だとおっしゃっていましたが、本作の撮影中、カメラが回っていないときのイクチュンさんはどのように過ごされていたのか教えてください。撮影チームは合宿状態だったとも伺っています。
キム・ヤンヒ監督:
ヤン・イクチュンさんは主人公でしたので、出演しないシーンがないくらい、休む間もなくずっと撮影していました。イクチュンさんは純粋で自由な方です。済州島で撮影した時には、マネージャーもついていなくて、ひとりで撮影現場に来ていました。済州島は広いですし、車がないと動けないところです。交通も少し不便なところもあり、なにかと車が必要です。済州島にいる間、イクチュンさんは車の運転をかなり練習していたと思います(笑)。リュックを背負ってひとりで撮影現場に来て、よく車であちこち行かれてました。時々、撮影が終わってから私も乗車させていただいたことがありました。
Q2:
映画を観たり本を読んだりされる時に、好きなお話のジャンルはありますか?どんな感情が得られるお話が好きでしょうか? また、今回の作品に限らず、ご自身の作品を観てどんな感情を抱いてほしいとお考えでしょうか?
キム・ヤンヒ監督:
私は人と人の関係を描いた映画や本が好きなんですね。人との関係のなかで、どんな人がどんな人に影響を与えたのか、そしてその影響によって、人生がどのように変わったのか、について描かれているものがとても好きです。私自身、今まで生きてきたなかでたくさんの人からたくさんの影響を受けてきました。それを映画にするということは、私に影響を与えてくださった方達に対する感謝の気持ちでもあります。人だけではなく、映画や本も、生きていく人生において、いい影響を与えてくれるものだと思います。
私が映画を作るのも、観客のみなさんにいい影響が届いてくれたらと思っています。人生の一瞬を私の映画と共にしてくださるわけですので、私の映画からいい影響が届けばいいな、という想いで映画を作っています。これからも映画を通して、人との関係性を描いていきたいです。
Q3:
脚本を書くにあたって、インスピレーションを得た古典的な恋愛小説は何かありましたか?例えば「ベニスに死す」は関係あるのでしょうか?
キム・ヤンヒ監督:
『詩人の恋』においてとくに影響を受けた恋愛小説はないのですが、本作を作ったあと、多くの人が『ベニスに死す』について言及してくださいました。
私は日本文学に対しても関心が高いのですが、その中でも人との関係性を深く描いた小説が好きで、なかでも夏目漱石の「それから」が好きです。人間関係における、ほろ苦さやどうしようもない状況、そして人の内面の強靭さと同時に内面の弱い部分も描いています。最後は悲しい結末ですが、私の中では、いちばん好きな小説です。
Q4:
本編で「悲しみを抱える人々のために代わりに泣くのが詩人なんだ」という台詞がありますが、
キム・ヤンヒ監督は映画監督とはどういう人だと思いますか?
キム・ヤンヒ監督:
「誰かの代わりに泣いてあげる」というのは、詩人に限らず芸術家の役割であり宿命だと思います。映画を作ったり、美術や音楽を作っている芸術家の中には、そのような役割を果たしている人がたくさんいると思います。人生において、心の中に大事にしまってなかなか表現できない感情は誰でも持っていると思うのですが、それを取り出して見せてくれるのが芸術家だと、私は思うんですね。芸術家がそれに寄り添ってあげることによって、人々は人生の分岐点を振り返ることができると思っています。
司会:
ありがとうございました。残念ながら、お時間が来てしまいましたので、最後に、キム・ヤンヒ監督から皆さまへ一言、宜しくお願い致します。
キム・ヤンヒ監督:
今日は私の知人も劇場に来てくださっていて、画面越しながらこのようにお会いできてとても嬉しいです。今は、コロナ禍で日本には行けないのですが、今日、皆さんと一緒に居られたらどれほど嬉しかっただろうかと思いました。今日は来てくださって、本当にありがとうございます。そして去年、私が日本にいる間、たくさん助けてくださり、ありがとうございました。